メアリー=ケイト&アシュレー・オルセン/THE ROW
ミニマリスト? それともマキシマリスト? どんな気分のときも、オルセン姉妹の作る服は常にシックだ。それは姉妹の本能であり、信念でもある。
ルイーズ・トロッター/CARVEN
2023年にカルヴェン(CARVEN)(1945年、マリー=ルイーズ・カルヴェンによりパリで創業)が発表したトロッターによる初コレクションは、デザイナーの強みとメゾンの強みを融合させ、ファッション性と機能性を最大限に引き出すものだった。
ヴィクトリア・ベッカム/VICTORIA BECKHAM
ヴィクトリア・ベッカムは、2番目のキャリアが最初のキャリアを圧倒的に上回る成功を収めた稀有なセレブリティ・デザイナーだ。右は2018年のランウェイにて、左はロンドンの自宅で撮影されたものだ。2008年に自身の名を冠したプレタポルテ・コレクションをスタートして以来、ベッカムはブランドとともに進化を続けてきた。初期のボディコンシャスな「リザルト」ドレスから、2024年春夏コレクションでは、若き日のダンストレーニングに着想を得たニットレオタードやジャージードレス、イギリスの田園地帯の隠れ家で家族と過ごす休日に着るようなアウトドア仕様のジャケットやブーツまで、多彩なアイテムを発表(ブランドの快進撃は、夫の波乱に満ちた生涯とサッカー選手としてのキャリアを描いたNetflixの大人気ドキュメンタリーでも垣間見ることができる)。
ショーのバックステージで、今回のコレクションを「とても個人的なもの」だと語ったベッカムの哲学は、スパイス・ガールズ時代から変わっていない。彼女はかつてVOGUEにこう語った。「スパイス・ガールズは、人と違うことのすばらしさを称え、ありのままの自分でいいのだと世界中に示しました。ファッションを通じて、女性たちに力を与えたのです」──ニコール・フェルプス(以下、N.P.)
ドナテッラ・ヴェルサーチェ/VERSACE
ビヨンセは映画『ルネッサンス』のプレミアに鎖帷子のような構築的なドレスで現れた。ロンドンで開催されたファッション・アワードには、アマル・クルーニーが輝くブロンズ色のシークインドレスをまとって登場した。主演ドラマ『The Idea of You』の公開を初夏に控えるアン・ハサウェイ(写真)は、煌めくゴールドのタンクドレスに身を包んだ。ドナテッラ・ヴェルサーチェほど、イヴニングドレスの魅力を理解している人はいない(もっとも彼女自身はヴェルサーチェ アイコン コレクションの黒いテイラードジャケットやパンツを好んで着ている。ドナテッラがVOGUEに語ったところによれば、それは「誰が責任者なのかを、さりげなく印象づけるため」だという)。
ドナテッラは四半世紀以上にわたってヴェルサーチェを率いてきた。現役の女性デザイナーの中で、彼女ほど長いキャリアを誇る者はほとんどいない(数少ない例外が、同じくイタリア出身のヴィジョナリー、ミウッチャ・プラダだ)。亡き兄ジャンニとの親密な関係のためか、ドナテッラは世界を、あるいはヴェルサーチェ自体を厳密な二元論で捉えることはない。「女性を自認する人が、男性とは異なる形で女性の身体を理解しているのは当然です」とドナテッラは言う。「でも、デザイナーによって強みは違う。私の強みは、強い信念と自信があること。私たちは女性たちの声に耳を傾け、広め、支持していかなければなりません」──N.P.
ヴィクトリア・ベッカム、イザベル・マラン
デザイナーとして活躍する元ポップスターと、ロックスターのようなデザイナー。二人の今をつくったのは、服に投影されたデザイナー自身の自信にあふれたスタイルと姿勢だ。
ダミ・クォンとジェシカ・ジュン/WE11DONE
ウェルダン(よくできた)というブランド名にふさわしく、この韓国・ソウル発のブランドが提案するのは、90年代と2000年代の薫りを漂わせる洗練されたルックだ。
マリア・グラツィア・キウリ/DIOR
マリア・グラツィア・キウリは、自分が注目を集めるだけなら、ファッションメゾンを率いることに意味はないと考えている。「最初から、ファッションは大きなコミュニティだということを示したいと考えていました」と、キウリはディオール(DIOR)のパリのアトリエで語った。「ほかの人たちが考える女性らしさやフェミニズム、価値観に耳を傾ける必要がありました」。キウリはディオールでの初コレクションとなる2017年春夏コレクションで「We Should All Be Feminists(私たちは皆、フェミニストであるべき)」という強いメッセージを打ち出して以来、ひとりのデザイナーを神格化するファッション業界の在り方を拒み、チームワークを支持してきた。
ディオール時代には、アーティストのジュディ・シカゴ、デザイナーのグレース・ウェールズ・ボナー、振付師のシャロン・エヤル、そして母国イタリアをはじめ、メキシコ、インド、アフリカ各地の職人や作り手など、あらゆる人々と協力し、その功績を称えた。2024年春夏コレクションでは魔女に注目。その知恵、直感、自然とのつながりからインスピレーションを得た。「家父長制的社会は女性から知識を取り上げました」と彼女は言う。それは女性の主体性と自由を奪おうとする、現代社会の陰湿な攻撃とも重なるものだ。「ファッションは体と関わるものであり、だからこそ政治的です。これは確かな事実であり、私の仕事の中心でもあります」──マーク・ホルゲート(以下、M.H.)
ラッセルは3月、The Shedで上演された「The Effect」でニューヨークの演劇シーンにおけるデビューを飾った。
ヴィルジニー・ヴィアール/CHANEL
ガブリエル・“ココ”・シャネルがパリに最初のブティックを開いたのは1910年。フランスの女性たちが選挙権を得るはるか前のことだった。それから30年以上がたち、ようやく女性が参政権を勝ち取った頃には、シャネルはファッション帝国を築き、当時の窮屈なシルエットから女性を解放していた。装いに対するシャネルのこだわり、つまり、気取らず、飾らず、しかし明白にシックであることは、100年以上がたった今も、多くの点で時代のムードとぴったり合っている。シャネルのアーティスティック・ディレクターを務めるヴィルジニー・ヴィアールは、この先駆的な創業者以来、女性として初めてメゾンの舵取りを担う。「もちろん、私を育ててくれたのはカールです」と、ヴィアールは言う。
カール・ラガーフェルドは、ヴィアールにとって32年間共に仕事をしてきた長年の友人であり、師匠でもある(カールがヴィアールを「私の右腕であり、左腕でもある」と語ったのは有名な話だ)。「でも、最近はますますココを身近に感じるようになっています。あの自由でモダンな感覚、彼女の息づかいを、今この瞬間にも感じるのです」とヴィアールは言う。2019年2月の就任以来、ヴィアールは現代のスタイリッシュな女性たちの生き方に鋭い感覚を見せてきた。俳優のフィービー・トンキンやルイーザ・ジェイコブソンとの関係は、その一例だ。「女性に、シャネルの服を着ていると気分がいい、力や自信が湧いてくると言ってもらえたら、それ以上の喜びはありません」と、ヴィアールは言う。──チオマ・ナディ
ヴァネッサ・バールボニー・ハーリックとエリザベス・ジャルディーナ/ANOTHER TOMORROW
ニューヨークを拠点に活動するハーリックとジャルディーナにとって、人間や社会、環境への影響をないがしろにしたスタイルはありえない。
サラ・バートン/ALEXANDER McQUEEN
2023年10月、バートンは13年間指揮を執ったアレキサンダー・マックイーン(ALEXANDER McQUEEN)を退任した。最後のショーは、解剖学をテーマに巧みなテイラリングと職人技によって類いまれな美を生み出す、彼女の強みを存分に発揮した輝かしい傑作となった。
レイチェル・スコット、ガエル・ドレヴェ、オーロラ・ジェームズ、エミリー・アダムス・ボーディ・アウジュラ、キャサリン・ホルスタイン
「女性デザイナーの概念と闘っている」と言うのは、ディオティマのレイチェル・スコットだ。「女性というだけで、固定観念で見られてしまう。男は天才になれるけど、女は『協力が得意』というわけです」。NYを拠点に活動するスコットの作品は、出身地であるジャマイカや、一部のクロシェ(かぎ針編み)制作のために協力しているコミュニティと関連付けて語られることが多い。「でも、それはデザイナーという仕事の本質を表しているとも言えます。デザインは、複数の人間が一緒に作り上げるものだから」。
スコットは、現実や日常の服をファンタジーに昇華するデザイナーのひとりだ。エミリー・アダムス・ボーディ・アウジュラも、この系譜につらなる。コンテンポラリーなメンズウェアを、積み重ねた時間を感じさせる独自のノスタルジックな感性で塗り替えた彼女は、その後レディスウェアにも進出した。NYのアクセサリーブランド、ブラザー ヴェリーズのオーロラ・ジェームズも同様だ。アフリカ系の職人たちと協力しながら作品を作っていくジェームズは、非営利団体「15パーセント プレッジ(FifteenPercent Pledge)」を立ち上げ、ファッションを通じてコミュニティを支援し、サステナブルなインパクトを生み出すための青写真を描いた。
カイトのキャサリン・ホルスタインやフランキー ショップのガエル・ドレヴェも、現代の女性たちのワードローブに新たな変化をもたらした。あるときは別々に、またあるときは協力して、こうした女性デザイナーたちはアメリカのレディスウェアの現在に広がりと思慮深さをもたらしている。──ホセ・クリアレス=ウンズエタ
ジルダ・アンブロージオとジョージア・トルディーニ/THE ATTICO
ジルダ・アンブロージオ(左)とジョージア・トルディーニ(右)は、ファッションスタジオでの実務経験がないまま、2016 年にジ・アティコを立ち上げた。レトロなスリップドレスと室内着風ローブのコレクションはソーシャルメディア上で大きな注目を集めたが、ブランドのデビューに懐疑的な目を向ける者も多かった。これは、ファッション業界には少なからず、性差別的な側面があることを物語っている。「矛盾した話です」と二人は言う。「女性が何を望み、何を感じ、何を必要としているのかを、女性以上に知っている人はいません」。
デビューから8年、ジ・アティコの服はヴィンテージ調のパーティードレスからボーイッシュなカーゴパンツ、マキシ丈のダスターコートまで広がり、世界各地の250のショップで取り扱われている。2023年9月にはミラノのシックなセンピオーネ地区の路上で初のファッションショーを開催。春夏コレクションのピースを着用したデュア・リパやヘイリー・ビーバーの姿がスナップされている。──N.P.
トリー・バーチ/TORY BURCH
トリー バーチ(TORY BURCH)は十数年前からファッションショーを開催しているが、ランウェイにミニドレスが登場したことはほとんどない。ペンシルスカートや、クレア・マッカーデル風のたっぷりとしたロングスカートが登場することはあっても、膝上丈のスカートを見ることはまれだ。しかし、2024年春夏コレクションでは様子が変わった。「ショート丈のフープドレスは、私のワードローブにはない服でした」と、バーチは言う。写真は、ビスコースジャージーのピンク色のドレスを着た友人のエミリー・ラタコウスキーだ。「でも、この形に挑戦してみたかった。実際、とても気に入りました。自分でも着てみながら、試行錯誤を繰り返しました」。
この種のフープドレスには、以前はスカートをふくらませるための骨組みが仕込まれていた。バーチは、かつては女性を束縛していたものを女性を解き放つものに変えるというアイデアが気に入っているという。「現代の女性たちは、自分のセクシュアリティや個性について、自分なりの考えを持つようになっています。こうした女性たちのニーズに対応するには、どうすればいいのか。必要なのは、多様性だと思いました」。かくして、春夏コレクションのランウェイにはミニスカートだけでなく、足を長く見せるコーティングジャージー素材のパンツや、ナイロンタフタのジップ付きポロも登場した。これらのアイテムもリトルピンクドレスと同じくらい軽やかだ。──N.P.
グレース・ウェールズ・ボナー/GRACE WALES BONNER
デザイナーのボナーは、ジャマイカ系イギリス人だ。ボナーが作る服は人種やジェンダー、歴史の批判を原動力としており、今日の世界と大胆不敵に関わる人々のエネルギーにあふれている。
アルベルタ・フェレッティ、ガブリエラ・ハースト
ロマンティスト(フェレッティ)と現実主義者(ハースト)──正反対に見える二人だが、常に女性を第一に考えるという強い信念を共有している。
アンナ・オクトーバー/ANNA OCTOBER
まさに破竹の勢いで活動の場を広げているウクライナのデザイナー、アンナ・オクトーバー(左)。現在はパリとキーウを行き来しながら、拡大を続けるチームとともに制作に励んでいる(右に写っているのは、友人でブルックリンを拠点とするウクライナ人アーティストのイェレナ・イェムチュク)。オクトーバーの服は、デザイナー自身と同じように自信にあふれ、きわめて官能的でもある。この体に吸いつくようなスリップドレス作りの天才は、質感とコントラストで遊ぶのが好きだ。テイラードパンツにフリルのついたケープを合わせたり、工芸博物館で見たヴィンテージのドイリーにインスパイアされて、透け感の強いクロシェを取り入れたり。女性には、自分自身が満足できる服を着てほしいと考えるオクトーバーは、自身のデザインを「デート向き」だと評する。もっとも、彼女がイメージしているのはロマンティックな関係に限らず、自分自身や友人との出会いでもある。──レアード・ボレッリ = パーソン
シモーン・ロシャ、スプリヤ・レーレ、ステラ・マッカートニー、グレース・ウェールズ・ボナー、マーティン・ローズ、フィービー・ファイロ
歴史を遡れば、ロンドンを拠点に活動し、ショーを発表してきた女性デザイナーは多い。マリー・クヮント、ヴィヴィアン・ウエストウッドから、サラ・バートン、クレア・ワイト・ケラーまで、さまざまな世代の女性たちがそれぞれのスタイルで自分だけの、ときには風変わりな美学に磨きをかけてきた。アイルランド・ダブリン生まれのシモーン・ロシャは、ロンドンで活躍する個性的で現代的な女性デザイナーのひとりだ。
ロシャの服が幽玄で詩情にあふれた世界観によって現代的な女性らしさを想起させているとすれば、ロンドン南部で生まれたジャマイカにもルーツを持つマーティン・ローズは、市場にあふれる退屈なテイラリングやスポーツウェアにひねりを加え、メンズウェアの新境地を開いた。
一方、グレース・ウェールズ・ボナーの精神的なショーに魅せられたファンは、ボナーがジャマイカ系イギリス人というルーツを生かして厳密な学術研究に基づいて構築した、色と職人技にあふれた緻密なデザインにひれ伏した(ボナーとアディダス オリジナルスのコラボレーションから生まれたスニーカーはもちろん即完売した)。
アジア系イギリス人デザイナーのスプリヤ・レーレは、宝石のようなカラーパレットとインドの伝統的なドレスのディテールを取り入れた、ボディラインを強調する立体的なデザインのコレクションを発表した。
しかし、現代の女性デザイナーの中でも、きわだってカルト的な人気を集め、崇拝されているデザイナーと言えばフィービー・ファイロだろう。セリーヌ(CELINE)のクリエイティブ・ディレクターだったファイロは、6年間の沈黙を経て、自身の名前を冠した新ブランドの立ち上げをインターネット上で突如発表した。初コレクションが発表されると、贅沢なコートやウエストを絞ったテイラリングを求めて熱狂的なファンが公式サイトに殺到した。
ステラ・マッカートニーが、世界的な現象としてのファッションブランドを熟知していることは言うまでもない。マッカートニーのブランドは20年以上前に設立されて以来、環境保護に配慮したデザインのパイオニアとして、サステナビリティが業界のキーワードとなるはるか前から、革新的な素材、環境再生型の農業、アップサイクルにおいて業界を牽引してきた。──ローラ・ホーキンス
ナデージュ・ヴァネ=シビュルスキー/HERMÈS
この名前に聞き覚えがない人もいるかもしれない。このフランスの名門メゾンは、常に個人よりもチームを優先してきたからだ。ヴァネ=シビュルスキーが作る完璧な服は親密さと知性を呼び覚ます。
フィービー・ファイロ/PHOEBE PHILO
ファイロが帰ってきた──自らが信じるファッション(とビジネスアプローチ)をひっさげて。唯一無二の特別なピースを持続可能な数だけ生産する。ファイロは再び、勢いに乗っている。
シェミナ・カマリ/CHLOÉ
シェミナ・カマリは毎日、自宅と仕事場を行き来するためにパリのカルーゼル橋を歩く。しかし最近は、仕事場が自宅のようになってきたという。カマリは2023年10月にクロエ(CHLOÉ)の新しいクリエイティブ・ディレクターに就任した。クロエで働くのは、これが3度目だ。すべての家─メゾン─がそうであるように、この家も特別な感情をかきたてる。43歳のカマリはドイツのデュッセルドルフで生まれた。選考段階の面接では、クロエの関係者にこう言ったという。「このメゾンに初めて出会い、恋に落ちたときの感覚を取り戻したい。世界には、同じ気持ちの女性がたくさんいるはず。だってクロエは本当に、エモーショナルなブランドだから」。
カマリが取り戻したい時代とは、2000年代、当時クリエイティブ・ディレクターだったフィービー・ファイロのデザインチームで働いていた頃だ。当時は何よりも直感を重視して服が作られていた。これは、2月のパリ・ファッションウィークで発表されるカマリの初コレクションにも通じるアプローチだ。しかし、カマリが何よりも大切にしているのは、1952年にクロエの創業者ギャビー・アギョンがメゾンを立ち上げたときの精神だ。「女性には、もっと自由になれる服、もっとリラックスできる服を着て自分の人生を生きてほしい、とギャビーは言っていました。どの女性にもやるべきことがあるからです」と、カマリは言う。「クロエは何も押し付けません。ただ、女性がありのままの自分でいられるようにするだけ。今日の社会では、これはとても意味のあるメッセージです」──M.H.
〈Bibi Borthwick images〉Styled by Camila Nickerson Hair: Soichi Inagaki Makeup: Celia Burton Models: Doutzen Kroes and Liya Kebede Manicure: Adam Slee Tailor: Carson Darling-Blair Produced by Holmes Production Set Design: Roxy Walton Photographed at Waddington Studios